セネガルの首都ダカールから車で約2時間。
トゥーバ・トゥール村はどの家も大家族だ。
そこには多くのバオバブの樹と昔ながらの素朴な日常がある。
主人公は村に住む12歳の少年モードゥ。30人を超える家族の一員で、農作業や牛追いの手伝いをしながらコーラン学校に通っている。将来、外国に行って商売をしたいという夢があるので、その為にも本当は公立のフランス語学校で勉強したいと思っている。
映画には彼の陽気な家族達や、憧れの女性である隣家のファトマ先生、盲目の祈祷師や縄作りの名人など個性豊かな村人達が次々に登場する。
そして彼らの暮らしの背景にいつもどっしりと存在しているのがバオバブの樹だ。
バオバブには多くの使い道があり、村人の生活には欠かせない。
樹は子供達の遊び場でもある。葉や樹皮などは大いに利用するが、村人たちは決して切り倒す事はしない。なぜならバオバブには精霊が宿っていると、誰もが信じているからだ。村には御神木も存在し、人々は事あるごとにバオバブの精霊に祈りを捧げ、敬っている。
しかし近年、都市部では急速な近代化が進み、100年、500年、1000年と、この大地でたくさんの生きものたちと生きてきたバオバブが消え始めている。
トゥーバ・トゥール村に開発の波が押し寄せて来るのも時間の問題なのだろうか・・・
この映画は、バオバブと共に生きる一人の少年と家族の日々の営みを通して、人間と自然とが共存するとはどういう事なのかを静かに問いかける。
アフリカなどでサバンナにそびえ立つ巨樹バオバブ。
くねくねと伸びた枝が特徴的で、写真や映像で見たことがあるという人も多いだろう。
サンテグジュペリの「星の王子さま」では、星を破壊する困りものとして描かれているが、実は動物や人々の暮らしに欠かせない大切な樹だ。
写真家・本橋成一が初めてバオバブを見たのは、今から35年前の1973年、テレビ番組の撮影で訪れた東アフリカのツァボ国立公園だった。
象がバオバブを倒していた。
案内役のマサイ族の老人が驚いて言った。
「こんな光景は見たことがない」
象とバオバブはお互いがこの地に暮らし始めてから共生してきた。
象がバオバブを倒すのはよっぽどのこと。
その年は何十年ぶりかの干ばつだったという。
バオバブの幹は大量の水を含んでいるので、そこから水を得ようとしたらしい。
樹齢500年とも1000年ともいわれるこの樹は、大昔から大地に根づき動物たちとともに生きてきた。
個性的な形のバオバブの圧倒的な存在感に魅せられた本橋は、この樹と生き物たちとの共生に関心を寄せるようになる。
1989年、1990年のパリ・ダカールラリーの取材でアフリカを訪れた本橋は、バオバブに再会する。
サハラ砂漠からセネガルの首都ダカールに向かっていくと、そこには村が広がり、村には必ずバオバブがあった。
動物だけでなく人々もバオバブとともに暮らしていたのだ。
実際、バオバブには100近くもの用途があるという。
樹皮は屋根材やロープ、また薬用にも。
果実を食べた後の殻は食器や楽器に利用され、種子は食用油、石鹸にもなる。
葉は乾燥させ粉にしてクスクスなどに入れる。
また、聖なる樹として崇められるバオバブもある。
本橋はバオバブとともに暮らす人々の姿に本来の人間の暮らしのあり方を見出した。
「何度かバオバブに会いにいくうちに、この個性的な形は、人間や動物たち、そして大自然と関わってきた証であるように思えてきた。
幹に記された象形文字のような模様にも、そのバオバブの記憶が記されているように見えてきた」。
本橋はその想いを胸に再び西アフリカを訪ねる。
しかしそこには急速に開発が進む都市とそのために切り倒されたバオバブがあった。
彼はかつてのバオバブの記憶を尋ねるように旅に出る。
首都ダカールから車で2時間走ったトゥーバ・トゥールという村がその舞台。
本橋は、そこに暮らす12歳の少年、モードゥとその家族の生活を通して、文明の波が目前まで迫る現在のアフリカで今なお続けられている昔ながらの暮らしやバオバブに対する信仰に再会を果たす。
この映画はバオバブと共にある彼らの暮らしを丹念に描きつつ、樹齢千年にもなるというバオバブの巨木に刻まれた人たちとの生活の記憶、主人公の少年が向かう未来の姿、そしてなぜ人間だけが地球上の生き物たちの時間を追い越して走り出してしまったのか、を静かに問いかける。
- 面積
- 197,161平方キロメートル(日本の約半分)
- 人口
- 1,220万人(2007年、UNFPA)(日本の約10分の1)
- 首都
- ダカール
- 民族
- ウォロフ族44%、プル族23%、セレール族15%他
- 言語
- 公用語はフランス語、ウォロフ語、セレール語他(トゥーバ・トゥールはウォロフ語)
- 宗教
- イスラム教95%、キリスト教5%、伝統的宗教
- 気候
- 雨季と乾季の2シーズン
- 経済
- 落花生栽培などの農業が中心。まぐろ、かつお、たこなどの漁業も盛ん。
※外務省サイト参照
映画の舞台となったトゥーバトゥール村はセネガルの首都ダカールから東へおよそ100キロの内陸にある村である。
トゥーバトゥールはそもそもその地域に散在していた90を超える小さな村々の、言わば村落集合体としての総称である。
それぞれの村落は基本的に元々の村があった土地にそのまま存在しているため、“ トゥーバトゥール村” と一括りにした場合、その土地は広範囲に及び、人口も40,000人を超えるとされている。
村人の多くは農業に従事しており、主な作物は主食となるミール(イネ科の植物)や落花生で、落花生が主な現金収入源となっている。
また近年では、人口の3割に当たる人々がダカールを始めとした大都市、ないしは隣国のガンビアなどのアフリカ諸国、遠くはヨーロッパ、アジアにも長期の出稼ぎに出ている。
毎週土曜日には村の中心部で大規模なマーケットが開かれ、野菜や肉、魚はもちろん、衣類や簡単な電化製品など、生活に必要なものが遠くの町からも集まってくる。
- 和名
- バオバブ(Baobab)
キワタ科(パンヤ科)
アダンソニア属(バオバブ属) - 学名
- Adansonia digitata
【種類】
現在知られているバオバブは約10種。
アフリカ、マダガスカル、オーストラリアなど亜熱帯から熱帯に分布し、長い乾季を伴う乾燥地に生育する。
【自生場所】
種子は非常に発芽しにくく、20℃以下では腐ってしまう。
発芽期間はきわめて長いが、動物に食べられ、糞と共に排出されると簡単に発芽する。
【樹齢】
長生きの樹として知られ、5000年から6000年生きられるとの推測もあるが、
ある程度の直径になると、中心が少しずつ空洞になっていくため、正確に測量することは難しい。
現在のところ、正確に測られたものでは、直径4.6Mで1010年。
【たっぷり水分を含む木】
バオバブの水分は、実に全体の65%といわれ、巨木になるとその量はドラム缶20~30本にもなるという。
これは木目が粗く、その柔組織に水分をたっぷり保つことができるためである。
地上部だけでなく、根も肥大化して、貯水する。
【多様な活用法】
専門家によると、バオバブは100近くもの用途がある。
樹皮は屋根材やロープ、薬に。果実を食べた後の殻は食器や楽器に利用され、種子は食用油、石鹸になる。
葉は乾燥させて粉にしてクスクスなどに入れる。
もちろん家畜のえさになる。
根は、食用などに使われる。
実は新鮮なうちに割って飲むとおいしいジュースに。
そのまま食べれば、白いラムネのような舌触りと甘酸っぱさで子どもたちの大好きなおやつとなる。
【お墓にも!?】
昔は、下流階級に属し土葬することを許されなかったグリオ(世襲制の職業音楽家)の一族は、バオバブの空洞に埋葬されていた。
本橋成一(もとはし・せいいち)
写真家・映画監督
東京都出身。
68年、「炭鉱〈ヤマ〉」で第5 回太陽賞受賞。
91年よりチェルノブイリ原発とその被災地ベラルーシに通い、汚染地で暮らす人々を写し撮る。
95年、「無限抱擁」で日本写真協会年度賞、写真の会賞を受賞。
98年、「ナージャの村」で第17回土門拳賞受賞。
同名のドキュメンタリー映画は文化庁優秀映画作品賞を受賞したのを始め、海外でも高い評価を受ける。
2作目「アレクセイと泉」で第52回ベルリン国際映画祭ベルリナー新聞賞および国際シネクラブ賞受賞。
07年、映画「水になった村」を初プロデュース。
最新作「バオバブの記憶」は長年の想いが結実した作品。
一之瀬正史(いちのせ・まさふみ)
映画カメラマン
山梨県出身。70年、「水俣・患者さんとその世界」(東プロ【現青林舎】)の撮影助手以後、一連の「水俣作品」に参加。77年「わが街わが青春・石川さゆり水俣熱唱」(青林舎/東北新社)で映画カメラマンとしてデビュー。
「人間の街・大阪非差別部落」(青林舎)「しがらきから吹いてくる風」(シグロ)など映画作品の他、NHKドキュメンタリーなどTV番組も多数。
「ナージャの村」「アレクセイと泉」「ナミイと唄えば」など、これまでポレポレタイムス社が手がける全ての作品の撮影を担当。97年「ナージャの村」(監督本橋成一作品)にて日本映画撮影協会JSC賞本賞受賞。
橋爪 功(はしづめ・いさお)
俳優
大阪府出身。文学座、劇団空などを経て、演劇集団円の設立に参加。舞台や映画、テレビなど幅広く活躍している。
主な作品に「ドリスとジョージ」「シラノ・ド・ベルジュラック」「レインマン」などの舞台作品の他、「お日柄もよく、御愁傷さま」(東宝)「マルサの女」(NCP)などの映画、数々のテレビドラマで活躍。ナレーションも多数手がける。
シリアスな役からコメディーな役までオールマイティでこなす俳優。
トベタ・バジュン
ミュージシャン
98年ode musicよりCD「imaginary inquiry/V.A.」でデビュー。
2006年、坂本龍一氏設立のプロダクション・オフィスのLLP10℃に所属。
2008年11月、葉加瀬太郎氏が総音楽監督レーベルHats Unlimitedからメジャー・リリース。サウンドプロデューサー、リミキサー、ミュージシャンとして数多のアーティストとコラボレーションを重ねてきている。
2008年6月21日全国ロードショーの映画「西の魔女が死んだ」では初の映画音楽を全編にわたり手掛け大きな反響を呼んでいる。
- 撮影
- 一之瀬正史
- 整音
- 弦巻 裕
- 編集
- 村本 勝
- 撮影助手
- 山田武典
- 現地録音
- 高橋義照
- 助監督
- 土井康一
- コーディネーター
- 中村真樹子
- 現地助手
- 長谷川祥子
- チェリー・クリビエ
- 通訳
- パパ・マガット・ゲイ
- ママドゥ・ボッジ
- 車輛
- ムスタファ・ガジョ
- マムール・ワッド
- ネガ編集
- 福井康人
- タイミング
- 三橋雅之
- 製作デスク
- 桐生潔
- 村上朝子
- 中植きさら
- ウォロフ語監修
- ファール・ウスマン
- セレル語監修
- エチェン・ジャン・ファイ
- 英語字幕
- 高崎真由美
- 若山多美男
- グラフィックデザイン
- 伊勢功治
- 宣伝編集
- 纐纈あや
- イラスト
- 安藤みちこ
- スチール撮影
- 本橋成一
- 公文健太郎
- 宣伝
- 山田美恵(ゴールデン・ロット)
- 宣伝アシスタント
- 岡野由美子
- 配給
- サスナフィルム
- ポレポレタイムス社
- 配給統括
- 大槻貴宏
- 語り
- 橋爪 功
- 音楽
- トベタ・バジュン
- エグゼクティブ
プロデューサー - 井上和子
- 美木陽子
- プロデューサー
- 石紀美子
- 監督
- 本橋成一
- モードゥ・デュフ
- ンバイ・デュフ
- セイナブ・ンゴム
- セイナブ・デュフ
- アブドゥ・デュフ
- ハディ・デュフ
- アワ・デュフ
- ンジェメ・デュフ
- アサン・デュフ
- アリウン・バダラ・デュフ
- ンバイ・デュフ
- ジョンベ・ジョンヌ
- チェコドゥ・ンゴム
- モードゥ・ムサ・ンゴム
- イサ/ンゴム
- ファトマ・スィラ
- ジェイナバ・ンゴム
- モール・ビンタ・セン
- ダウダ・デュフ
- アストゥ・デュフ
- ワガン・ンジャエローズ
- アブドゥライ・カマラ
- モハメド・ファル
- オマール・デュフ
- アブライ・デュフ
- バカル・デュフ
- シェフ・デュフ
- アストゥ・デュフ
- サリマタ・デュフ
- マイムナ・デュフ
- バラ・デュフ
- ンデイ・デュフ
- ババカル・デュフ
- ハリ・デュフ
- アブドゥ・デュフ
- ンガニ・ンゴム
- マムール・デュフ
- イサ・デュフ
- アイーダ・ティアム
- トゥーバ・トゥール村の皆さん
- 小黒一三(ソトコト)
- 本間克明
- 勝俣 誠
- 湯浅浩史
- 斎藤庸道
- 岩戸佐智夫
- 野方正俊
- 鈴木修至
- 滝沢哲俊
- 佐伯 剛(風の旅人)
- 中尾英雄
- 中尾道子
- 奥村尚子
- 濱田幾子
- 篠原 直
- 藤井幸雄
- 藤井喜美子
- 秋山ちえ子
- サウンドデザインユルタ
- アリタリア航空
- (株)ワイド
- ODYSSEY VISUALS
- OurPlanet-TV
- DANKA DANKA
- HOTEL MASSA MASSA
- 光村印刷株式会社